都営バス資料館

経営計画2022案を発表、利用者からの意見を募集

交通局は令和4(2022)年2月15日に、経営計画2022の案を発表した。通常は3年ごとに発表している中期計画で、前回の経営計画2019に続くものとなる。.
今回は案の公表により、「広くお客様・都民の皆様からのご意見を募集」と銘打って
期間は3月15日までで、インターネットの専用フォーム、郵送による提出を受け付けるとのこと。
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この経営計画は、交通局を取り巻く事業環境の変化をふまえて、各事業が抱える課題の解決に向けて今後3年間の交通局の経営の方針や行う事業とともに、財政収支計画もあわせて示すものである。
策定にあたっては、少子高齢化や労働力人口の減少に加え、新型コロナウィルスの影響により大幅に乗客が落ち込んだことを踏まえて、中長期的に安定した輸送サービスを提供する役割を担うための実施事業を並べている。

▲経営計画の位置づけ P.08より
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本記事では、都営バスに関連するところを中心に紹介しよう。全体としては都営バスに関する新規の記載はかなり少なく、財政収支均衡を優先しているため、積極的な投資関連の項目もほとんど見られないのが残念なところである。
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交通局を取り巻く事業環境と今後の経営の方向


▲都営交通の乗客数(増減率)の推移 p.02より

新型コロナウィルスの影響により、初の緊急事態宣言となった令和2(2020)年4-5月は都営バスは50%減、その後も従来の20~30%減のまま推移している。緊急事態宣言が終わった昨年10月には10%減まで回復したものの、今回のオミクロン株でまた影響が出たと思われる。
また、都心部を主な営業エリアとする都営地下鉄は 、他の鉄道事業者に比べて回復傾向が鈍い状況が続いている。
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東京都の人口は2025年の1420万人をピークに減少、営業エリアである23区は2030年の1000万人がピークで緩やかに減少する推計となる。また、テレワークの増加などにより移動に対する価値観の変化が起き、コロナ収束後も旅客需要がコロナ以前には戻らないことが見込まれる。
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また、世界的な気候変動による災害対策の強化、共生社会の実現に向けた取り組みとして全ての客が安全・快適に都営交通を利用できること、局職員一人ひとりが活躍できる職場作りを進めることが改めて示された。


▲本計画において集中的に取り組む事項 p.09より

都営バスの動向については、都心回帰・再開発の影響で乗客は増加して令和元(2019)年には1日あたり約63万人を達成したものの、翌年度にコロナの影響で急減、95億円と大幅な赤字に。乗客数は緩やかに回復傾向だが、コロナ前には戻っていないことが示されている。また、
近年は7割の系統が赤字だったが、令和2(2020)年度の決算では赤字系統が9割まで拡大しており、以下の文章(p.14)では減便・規模縮小を念頭においた書き方になっていると思われる。

「経常損益は当面赤字が続く見込みであり、需要動向を踏まえた路線運営を行うなど 、更なる経営の効率化に努める必要があります」


▲都営バスのここ10年間の運輸・収支推移 p.13より
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都営バスの今後の経営の方向としては、安全意識の徹底、需要の変化に迅速に対応し「鉄道を補完し公共交通ネットワーク全体の利便性や効率性を高めるよう路線運営」を行う、沿線地域との連携等でさらなる旅客需要の創出、バスのZEV(走行時に排出ガスを出さない電気バス・燃料電池車バスなど)化、経費の節減という5項目が挙げられた。

計画期間における具体的な取り組み

安全・安心の確保

今回の経営計画でも安全関連の項目がトップとなっている。都営バス関連では引き続き運転訓練車と前の3か年で登場した補助ブレーキを増設した一般車(教習兼用車)の活用による個人の特性を踏まえた的確な指導のほか、新車導入に合わせてバスの前扉を熱線ガラスとし、雨天時に左方の安全確認を行いやすくすることが新たに加わった。

質の高いサービスの提供

ダイヤの適正化として、需要の変化に対応するとともに、公共交通ネットワーク全体の利便性や効率性を高めるよう、路線・ダイヤの見直しを実施と記載された。毎回似たような文言だが、前回の経営計画2019での「バス路線の拡充によるダイヤの見直し」というプラスの方向の書き方からは一気に後退している。
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魅力的な企画乗車券の発売として、企画乗車券やICカードについて、他の交通事業者等とも連携しながら 、旅行者向けの乗車券の販売を拡充と記載がある。主に地下鉄を念頭においたものだろうか。
最近流行のMaaSについても記載され、様々な主体と連携し、デジタル技術を活用した取組を推進とされている。
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▲バスの利便性向上 p.53など
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バスの利便性向上については、バス停の上屋・ベンチの整備(2024年度までにそれぞれ60か所)のほか、バス車内の中央部天井にも次停留所案内装置を順次設置とされた。すでに燃料電池やフルフラットバスでは設置されているので、一般車にも拡大される模様。3年で240台という数から、新車を念頭に置いているのだろう。
前前回の経営計画で見られたような、バスの各種案内の改善や系統番号の英字化などは言及がなかった。
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多角的な広報の展開についても言及があり、みんくるのゆるっ都チャンネル(youtube)もぜひ活用してほしいところだ。

東京の発展への貢献

地下鉄の浅草線リニューアルや泉岳寺駅の大規模改良、地域再開発の話題が主眼で、都営バスと関係する部分は少ない。「5G等を活用したまちづくりへの貢献」として、バスの自動運転技術等の検証が新たに項目にあがっている。都営バスのフィールドの提供を通じた自動運転技術の検証への協力や、乗務員の運転を支援する安全装置の導入に向けた検証とあり、近年の[CH01](新宿駅西口~都庁循環)のように実際の系統を使っての検証を行うことが考えられる。
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都営バスが最も関係する項目として「環境に配慮したバス車両導入」があるが、燃料電池バスを現状71台保有のところを24年度までに累計80台導入EV(電気)バスの導入について、調査・検討を行うとともに、国や国内メーカーに路線バスに適した車両の開発を働きかけると記載あり。
EVバスは2年ほど前から導入に向けた調査が行われているが、台数の具体的な記載もないことから、燃料電池バスに比べると熱の入っていない書き方とみられる。
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▲都営交通オリジナルショップ p.65より
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新しい項目として目を引くのは「都営交通オリジナルショップ」だろうか。地下鉄駅構内に2023年度までに開設予定となっており、どの駅なのかは気になるところ。
環境配慮については、バス停におけるLED照明の導入拡大(2024年度までに上屋60、ポール300基)が触れられている。
省エネ運転の推進・オープンデータの提供推進については前回の経営計画2019の記述から変化なし。

持続可能な経営基盤の確立

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資産の利活用で目を引くのは「都営バス新宿支所について、市街地再開発事業に参画」の部分だろう。 令和元(2019)年に都市計画決定された西新宿三丁目西地区第一種市街地再開発のことを指しているが、現時点では新宿支所の敷地は再開発の対象外となっている。
2029年度に利活用開始となっているが、利活用の指す意味や車庫機能をどうするのかも含めて今後に注目だろう。


▲新宿区のサイトより都市計画図
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広告収入の拡大としては、屋外広告物に係る規制緩和の状況等を踏まえてバス停の広告版を増設を予定しているが、具体的な目標数は特にない。
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職員関連については、ダイバーシティの推進としてテレワーク・フレックスタイム制の拡大、育児・介護中の職員等がより働きやすい勤務体系を試行する模様。また、都営バスに限らず近年の事故を受けて、運転者の健康状態に起因する事故を防止するため、全乗務員を対象としたSAS(睡眠時無呼吸症候群)検診や、バス乗務員を対象とした脳MRI健診
を定期的に実施
となっている。
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p.85より
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デジタル技術の推進で目新しいのは、乗降調査のAIとカメラ判定による自動集計の検討だろう。従来は調査員が各車に乗り込み調査票を渡すのから大幅な効率化が可能となるが、実用化に向けた検討とのことで、2025年の大都市交通センサスあたりを見据えているのだろうか。
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グループ経営の推進については、政策連携団体への委託範囲を拡大とあるが対象は建設工事や発電所の運営となっており、はとバスの委託に対する言及はない。前回の経営計画でももほとんど記載がなく、現状維持となる可能性が高そうだ。
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経費の削減としては、バスの車両について、車両の状態等を勘案しながら、計画期間中の更新数を抑制と明記。ただし、ここ3年は大量の新車により平均車齢がむしろ若くなっており、現状の15~16年使用から再び伸びるのかが要注目。
なお、新車については低床化やフルフラットバスに関する計画の記載はなく、既存のノンステップバスを導入するのが続きそうだ。
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財政収支計画

これらの計画による各部門での財政収支計画が掲載された。都営バス(自動車運送事業)では営業収益(収入)が徐々に元に戻り、営業費用(支出)は逆に徐々に減少させることで2025年度の黒字化、繰越損益は2030年度の解消を目指す。収入を伸ばすことからも、大幅な路線廃止等による縮小均衡は目指していないと考えられるが、営業費用の大半は人件費が占めており、どの程度の運転規模縮小を検討しているかは気になるところ。


▲財政収支計画 p.95より

この案がどのようにブラッシュアップされるか、今後に期待したい。

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