都営バス資料館

低公害-蓄圧式ハイブリッド(MBECS, CHASSE, ERIP)

X代(平成3年度)導入の日野HIMRに続き、他バスメーカー各社もハイブリッドシステムに取り組み、三菱・いすゞ・日産ディーゼルは「蓄圧式ハイブリッドシステム」と呼ぶ方式を採用した。車両床下ホイールベース間にある油圧ポンプ・油圧モーター・アキュムレーター(蓄圧器)により構成されている。排気ガスの有害排出物について、最も排出すれる発進時に出力をアシストすることで削減する仕組みである。
車輛がブレーキをかける時に得られる運動エネルギーによって油圧ポンプを動作させ、アキュムレーター内に蓄えられた窒素ガスを圧縮する。発進時は切替弁を開いてアキュムレーター内に圧縮された窒素ガスを解放し、油圧モーターを回転させてエンジンをアシストする。
都営バスではZ代(平成5年度)~C代(平成8年度)にかけて採用されたが、値段の問題や期待したほどの効果が得られなかったこともあり、低公害仕様はCNG(圧縮天然ガス)バスに集約されていった。各メーカーが揃って導入された事業者は、全国で見ても数少ない。

MBECS Z代(平成5年度)


蓄圧式低公害システムが最初に登場したのは三菱ふそうの「MBECS」で、平成5年1月より運行を開始した。MBECSとは、”Mitsubishi Brake Energy Conver-sation System”の略。
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▲都バス70周年記念式典でのお披露目

燃費が10~25%改善したほか、排出ガスや窒素酸化物低減に大幅な効果が確認されたと謳われるシステムであった。
平成5年に当時の運輸省のバス整備活性化等補助事業により公営7都市(東京・川崎・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸)、民営1社(名古屋鉄道)に1輛ずつの計8輛が導入された。

Z代三菱_都市新MBECS車内 Z代三菱_都市新グリーンリバー車内_2

▲Z332の車内(左)、その他Z代都市新の車内(右) (北)
最初に導入したZ332は、同年に運行開始した都市新バス「グリーンリバー」仕様で導入が行われ、逆T窓にハイバックシートという都市新バスの標準仕様で導入されたが、座席レイアウトが本来の都市新仕様車と異なり、2人掛け主体の座席定員重視型となっていた。これは床下に機器類を搭載しているために軸重制限を考慮したものと考えられる。給油口も都営バスの三菱車標準と比べて高い位置に設置されており、床下機器類の関係ではないかと思われる。座席定員は29(乗務員席除く、以下同様)。
運転席はインパネ上部に蓄圧レベルメーターを設置、また試験車らしくハイブリッドシステム動作時間・回数などのカウンターや、フィンガーコントロールシフトの脇にはバイパススイッチが設置され、車内床部分には点検蓋が設けられていた。

MBECS A代(平成6年度)

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▲Z-A489(ア)
三菱A代MBECS_千住
▲A代MBECSの車内(北)
翌年度のA代は一般仕様車となり、車内の座席レイアウトも標準的なものとなったが、座席の座面と肘掛けの間に隙間を開けて立席スペースを狭くしている。また、都営バスの低公害車共通仕様の「低公害バス」の行灯を取り付けた。ライトヘゼルは角形を採用、運転席回りについてはZ332号車とほぼ同じレイアウトであった。晩年にはアイドリングストップ&スタートシステムの後付け改造を行っている。座席定員は26。

MBECS II B代(平成7年度)

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▲Z-B640(五)
平成7年にはハイブリッドシステムの改良により正式な型式認定が行われ、新モデル「MBECS II」として販売が行われた。同時に略称「Motorvehicle Brake Energy Conservation System」(自動車用制動エネルギー回生システム)に変更された。MBECS IIは名古屋三菱とMBM(三菱自動車バス製造)の双方の工場で製造されているのも特徴である。
アイドリングストップ&スタートシステムの標準搭載や各種機器類の改良がか行われ、運転席のダッシュボードに、「MBECS AIR」と表示された圧力計が設置された。これはブレーキ制動時の油圧ポンプが動作油に空気圧をかけているため、それを表示する圧力計である。MBECS Iではタンク本体に取り付けられていたが、確認しやすくなった。座席定員は26。

▲三菱B代MBECS 車内[北]

MBECS III C/D代(平成8/9年度)

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▲T-C222(ア)、T-C224(塩)

平成8年9月にエアロスターはニューエアロスターへモデルチェンジが行われ、同年12月にさらなる低燃費を実現したMBECS III (KC-MP737/337シリーズ)を発売した。早稲田に3輛のみ導入された。
MBECS IIIは油圧ポンプを今までの1機から2機へ増やし、あわせて油圧モーターの容量増大やクラッチ等の改良で回生効率を向上し、構造の見直しを行うことで低床化を可能にしたほか、システム動作音を軽減した。これによりディーゼルエンジン車と比較してNOxを約24%,PMを67%,黒煙(発進加速時)を約50~70%低減することができた。また、停車時にはアイドリングストップ&スタートシステムとの組み合わせで,都市内走行モード運転にて約17%の燃費向上が得られたとされる。なお、メーカー標準仕様ではニーリング(車体傾斜)を搭載となっていた。座席定員は26。
運転席の蓄圧レベルメーターについては、今までのインパネ上部に取り付けられたレベル表示から、メータークラスタ内に専用の表示区画が設けられ、アナログ針表示となった。
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▲K-D273(き)
さらに翌年の平成9年8月にマイナーチェンジが行われ、平成11年排気ガス規制対応車(KL-MP737/337シリーズ)として発売された。都営バスでは2輛が南千住に導入された。側面方向幕部分の窓は方向幕部分一体型の固定窓となっており、さらに窓は逆T字窓で銀色サッシを採用している。本来は二段サッシだが、ニューエアロスターの標準的仕様が逆T字窓だということで、そのまま採用したのだろう。
低床化が可能となったが、蓄圧式ハイブリッドシステムが床下にあるため、前扉部分の床高さはワンステップ同等の550mmで中扉部分の床高さは645mmとらくらくステップ車並みだった。そのため、車内は緩やかな傾斜となっていた。
ワンステップ仕様も可能だが、都営バスではツーステップ仕様で導入されている。

三菱C代MBECS 三菱D代MBECS_南千住

▲C代MBECS(左)、D代MBECS(右) (北)

車内座席レイアウトについては導入年度で異なる。C代車は前中扉間の扉側優先席が横向きになの対して、D代車は前向きとなっているほか、運転席側にも優先席を設置した。さらにC代車の座席はは銀杏モケットだったのがD代車の座席は無地となっている。D代の座席定員は24。
またMBECS IIIには標準で酸化触媒が搭載されていたが、東京都独自の排ガス規制に適合しないため対応品に交換された。

CHASSE B~D代(平成7~9年度)



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▲C-B626 (き)(塩)

▲低公害フェアでの展示(平成8年5月9(塩)

MBECSと同じく、制動時の原則エネルギーを油圧ポンプに蓄えるシステムである。愛称はCHASSE(シャッセ)、Clean Hybrid Assist system for Saving Energyの略とされた。
平成7年度の運輸省のバス活性化整備費等補助事業により、平成8年1月に新宿に1輛配置された。2月には横浜・川崎でも1輛ずつ運行が始まっている。CHASSEの特徴はアイドリングストップ&スタートシステムを当初から搭載して排出ガスの低減を図るとともに、機械式ATと坂道発進補助装置が付けられて乗務員の負担軽減も図っている。座席定員は25。
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▲B代の最後尾座席(塩)

C代以降の同仕様車と比較して屋根上に冷房機のコンデンサーが乗っておらず、室内配置も異なっている。軸重の関係で最後部座席が1人分少ないのも特徴。座席定員は26。
D代は大塚・巣鴨に計4輛配置された。車内の座席配置見直しにより2人減り、座席定員は24となっている。低公害ならば原則イチョウ柄となるモケットが無地だったのが不思議である。
特殊な仕様が災いしたのか低公害機能はほとんど使われず、平成17年度末にCHASSEの設備は取り外されてしまい、「低公害」の行灯も黒無地のものに交換された。
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▲P-C217 (タ)
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▲G-D248 (き)


▲いすゞC代CHASSE車内[北]

▲いすゞD代CHASSE車内[北]

ERIP B, C代(平成7, 8年度)


ERIPは日産ディーゼルが開発した畜圧式ハイブリッドバスで、蓄圧式の回生ブレーキユニット構造の動作原理は三菱のMBECSと同じである。ERIPは「Energy Recycling Integrated Power Plant」の略。平成6年度に大阪市交通局へ機械式AT仕様で1輌導入され、翌年度に都営バスにエアサス・MT仕様で練馬・北・江東に計5輌導入された。座席定員は24。
C代は練馬・江東に7輌導入された。この代ではアイドリングストップ装置を搭載し、運転席の蓄圧回生レベルメーターの表示がB代と異なっている。座席定員は25。
翌年度からCNGに集約されたため、ERIPの投入はこの年度が最後となった。
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▲F-B643(塩)
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▲L-C207(五)

▲日デERIP B代車内[北]

蓄圧式ハイブリッドの最後

これらの蓄圧式ハイブリッド低公害車は、日野HIMRと比べて回生ブレーキによるエネルギー補填のみで賄うため、外部電源からの充電が不必要として普及が期待された。しかし、実際に継続して導入した事業者は非常に限られていた。これは車両価格自体の値段の高さに加え、アキュムレーターを交換するときの費用もネックだったようだ。
さらにシステムが複雑だったことや、渋滞の多い区間では期待した程の効果が得られず、車体重量の増加により燃費が悪くなったという声もあり、期待した効果は出づらかったのだろう。
また、これ以外に不安定なブレーキと急加速問題もあった。蓄圧システム動作までのタイムラグや、アキュムレーターの圧縮が満タンになると制動力が低下しブレーキに不安定な部分があるのと、加速時における蓄圧エネルギーのエンジンアシストが急加速として現れてしまった。
これらの機構によりハイブリッド機能を使わない例が多く見られ、アキュムレーターのガスを抜いてしまうケースもあった。CHASSEは前述の通り最後の数年は行灯すら外され、ただのAT車になってしまった。
このような事情や販売実績もあったのか、最後まで残った三菱MBECSも平成11年5月のモデルチェンジ時に新エンジンを搭載したモデルは発売されず終息していった。
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▲Y-B626, P-D259 行灯撤去後(ア)

都営バスでもこれらのハイブリッドを作動させることは稀になり、最後に残ったD代のMBECSが平成23年2月に除籍されて姿を消した。なお、MBECSだけは一部が鹿児島交通に移籍して息の長い活躍をしている。
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(北)

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