都営バス資料館

低床-都市型超低床バス

W代(平成2年度)に登場した、今後の低床化を見据えたワンステップ・3扉が特徴的なバスである。4メーカー2輛ずつ製作された。
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▲C-W291(き)

概要

東京都庁の新宿への移転の際に、駅から離れている都庁舎へのアクセス用として平成3年3月に華々しく登場した>
来るべき高齢化社会への対応、福祉の街作りへの一環、そして路線バスへの信頼性回復を目的として、登場から2年以上前の昭和63年11月に各メーカーへ依頼がなされた。交通局が各メーカーに主だって要望した事項は以下の通りである。

  • 床面高さは現行の850mm→500mmとして、可能な限り低床にする
  • 前面方向幕の位置は従来車とほぼ同じ高さにする
  • 車内通路には段差を設けず、誰でも乗りやすくする
  • どの事業者でも対応出来るように、前中後扉を設置
  • 中扉に車いす用スロープを設置できるよう設計する

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▲超低床バス透視図 (都バス70年史、東京都交通局自動車部より)

これらを元に、今後の東京都交通局の車輌導入における標準仕様として検討するという内容であった。
実車を見ると、側面窓は上段引き違いの逆T字窓、扉はグライドスライドドアと都市新バス仕様にも通じる部分が見られる。これは、交通局から各メーカーへの仕様書に盛り込まれた内容ではないだろうか。そして視認性等の理由で側面方向幕は前面方向幕と同じサイズの物を採用したのも特徴的だ。なお、室内の車いすスペースが殆ど考慮されていないレイアウトだったために、翌年のX代のリフト車からは車いすスペースが設置された。
また、当時の技術力では床面高を全面500mmとするのは難しいということで、550mmの高さで妥協して可能な限り500mmに近づけるということになった。
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▲超低床バス車内(R-W292)

特殊な車輛ゆえ、国内4メーカーが協力して製造した車と思われがちだが、実際は一部の部品が共通な程度で、それ以外はそれぞれの社の技術とノウハウを集結した独自仕様で、ある意味個性あふれる車輛になったとも言える。
1メーカーずつ4輛が新宿に集まり、それ以外は高齢者や身体障害者の利用が比較的多い系統として、[品91](品川駅東口~大井町駅東口、品川)、[草43](浅草雷門~千住車庫、千住)、[錦27](箱崎町~小岩駅、江東)、[西葛20甲](西葛西駅~なぎさニュータウン、臨海)で1輛ずつ運行にあたった。
3ヶ月を経過しての利用者アンケートで、向い合せ座席を除くと80%の利用者から「乗降性がよい」評価となった。
平成3年5月には超低床バスの愛称募集を行い、「らくらくバス」が選ばれてロゴ入りステッカーが車体に貼られた。
 
足回りは開発期間の短さから、リアアクスルが自社開発可能な三菱と歯車のリーダーカンパニーとも言える大久保歯車工業と共同で『センタードロップリアアスクル2段減速装置』を開発し、これを各メーカーで共通に使用した。この時の技術がが後々のノンステップバスにも活きるようになる。 車内では、天井握り棒取付金具を富士重工業が開発した製品を用いたほか、低床化によって高い部分の降車ボタンが押しにくくなることを想定したため、握り棒に埋め込む形状の製品を取り付けた。しかし握り棒のサイズに見合う降車ボタンが国内製品には存在してなかったため、ドイツからの輸入品を取り付けていた。そのため、「STOP」という刻印がされていた。
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▲超低床バスの次停留所表示機
 
車内前方に設置された次停留所表示器は停留所表示部分が2段になっている特別な大型タイプが取り付けられた。放送装置もテープではなく、録音された音声のパーツをつなぎ合わせて放送するタイプだったが、お世辞にも聞きやすいとは言えなかった。
車内中程には方向幕式の路線図が設置され、停留所の上にランプが点灯し、路線のどの辺りを走っているかを一目で分かるようにした案内装置が設置された。
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いすゞ

いすゞの超低床車(W291・292)は一般車のキュービック車体のモデルチェンジ時期と重なり、超低床も新デザインベースとなった。足回りはエンジンにいすゞの一般路線車用としては新規となる8PD1というV8エンジンを開発し、運転席側にオフセットして設置した。そのためエンジンルーバーが助手席側に取り付けられているのが特徴的だ。
エンジンとトランスミッションはプロペラシャフトを介して接続しているが、これは中後扉付近の床面積を確保するためである。 フロントアスクルには二股に開いたステアリングナックルで車軸端をはさみこむ「逆エリオット型」を採用し、サスペンションのエアスプリングとサスペンションロッドの取り付け部を新たに設計した。また、エアスプリングをタイヤハウス内に配置することで前輪部の通路幅を確保した。
リアサスペンションもサスペンションビームの配置を工夫することで車軸の位置を下げた結果、床高は前扉部で550mm、中扉部で 580mm、後扉部で600mmを実現した 室内レイアウトは、座席を通路より1段高くして2人掛けと1人掛けをバランスよく配置して座席定員(23人)と立席定員を両立した。また冷房はビルトインクーラーとしたが、翌年度のX代よりエバポレーターを屋根上に搭載するように変更した。
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▲C-W291(き)

日野

日野の超低床車(W293・294)は、シャーシはU-HU2シリーズの都市型低床車をベースに、床下やエンジン廻りのレイアウトを全面的に見直すことで超低床を実現した。
エンジンはベース車種と同じく水平型6気筒のM10Uシリーズだが、エンジンを運転席側に300mmずらし、駆動系の動力部分も同じく運転席側に寄せた。ラジエーターは逆側に移設したが、設置空間を工夫して後扉の設置に対応した。さらに、リアのサスペンションは小型ベローズ(金属製伸縮管)を4個用いたドロップアクスル(車軸)とし、後部までの低床に対応した。
フロントリアアクスルについては、既存の京急型ワンステップ車で使用したものを超低床車向けに改良してサスペンションは新規開発品を採用し、床高は前扉部で500~550mm、中扉部で 570mm、後扉部で600mmとなった。 車内座席は床面から1段かさ上げされている。これは燃料タンクや各種機器の設置スペースを確保するほか、タイヤハウスの上に座席を設置したときに座りやすく、座席に座ったときに外が眺めやすくという配慮で、側面窓も下方に100mm拡大している。

座席配列は比較的一般車に近い座席配列で、前中扉間は運転席直後の座席のみ2人掛け、それ以外は1人掛けだった。中扉より後ろ側は2人掛けだったものの、タイヤハウス部の座席は後ろ向きで向かい合わせとなり、乗客の評判はいまいちであった。床下設置の都合で通路と座席との段差が大きかった点もデメリットとであった。ただし、最後部が一般車と同じく5人がけの座席を設置しているのは特筆すべきだろう。 段差については、翌年のX代では後扉が廃止されたために車両後部の構造について見直され、後輪タイヤハウス直後の床面を一段高くすることで改善した。
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▲A-W293,294(き)

三菱

三菱の超低床車(W295・296)は、新呉羽ボディとなった型式は試作でMP6Xと命名された。
前面の見た目はエアロスターKに似ているが、各種新機軸を投入した最先端の車輛となった。エンジンは一般車と同じ6D22を採用し、エンジンを横向きに設置して中型車で使用されているTドライブ方式で後輪と結んで駆動させることで、床高が前扉付近で560mm、車両後部で580mmと後ろまで床面がフラットな超低床を実現した。ただし、エンジン冷却系などの機械類もエンジン周辺部に集中配置したため、車体後部はさながら機械室のようになってしまったという。また、この影響で客室スペースが8m50cmと狭くなってしまった。
これらの駆動系のレイアウト変更に伴い、車軸間と車体長のバランス配分を変更した結果、車体長は10.3mでありながら、従来の都営バスの一般車(4.8m)より車軸が5.4mと長くなった。さらに、中扉付近の床下にスロープを収納しているのと、駆動系のレイアウト変更の重量配分調整のために、冷房機の熱交換機やコンデンサーユニットを床下に設置することが難しくなり、車体屋根上前部にクーラーユニットを設置している。

車体デザインも一般車と異なり、バンパー周辺のデザインは専用のものとなり、他メーカー車が既存車と同じパーツを使用したのとは異なっている。 車内の座席配置は、前扉の通路幅確保のため運転席位置が一般車と比べると若干端に寄っている。座席配置はタイヤハウス周辺は2人掛け、それ以外は1人が掛けとなっている。また、燃料タンクの位置の都合で前中扉間の優先席部分は一段かさ上げされている。
ちなみに試作型式MP6Xとして導入されたのは都営バスのみで、翌年度より正式に型式認定されてU-MP628Mとなった。合計で16輛導入され、東京都交通局13輛のほか、横浜市交通局・大阪市交通局・名鉄バス・九州産業交通に1輛ずつとなった。
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▲C-W295(き)
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▲H-W296

日産ディーゼル

日産ディーゼルの超低床車(W297・298)は、エンジンはツーステップ車と同じ水平型直噴6気筒エンジンであるPF6を搭載し、フラットな超低床と後部ドア設置のために運転席側に300mmオフセットして設置した。
また、フロントアスクルとセンタードロップリアアスクルを新たに開発したことで、床高が前扉部で550mm、中扉部で 570mmという超低床を実現できたもの、後扉部では655mmと京急型ワンステップ車と大差ない床高になった。また超低床化によって床下設置機器類に制約が出てしまうため、三車菱と同じく熱交換機などのクーラーユニットを屋根上に設置している。

車内は他メーカーと同様に座席の部分を一段かさ上げして設置した。座席レイアウトを工夫することでW代超低床車の中では最多となる着席定員26名を実現しているのが特徴と言える。座席のデザインにも特徴があり、タイヤハウス上に設置された座席は背中合わせに設置されているが、向かい合わせで一体化したデザインのものになっている。これは富士重工が製造しているレールバスでも類似の形状が採用されており、車内の雰囲気に対して「新しいイメージ」を提案しているそうだ。
また将来的に車いす用のリフトが取り付けられるようにW代の時点で設計されていたが、その後の導入実績はX代・A代のみとなり、都営バスの超低床車としては一番車輛数が少なく、東京都交通局以外での導入実績は皆無となってしまった。
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▲L-W298(塩)、C-W297(き)

これら超低床車は、翌年のX代で後部ドアを省略しリフトを搭載することで超低床車の交通局としての標準仕様が固まった。
この仕様で平成7年度(B代)まで導入されたが、当初の目的である「今後の都営バスの標準仕様とする」部分は価格が非常に高価になり、1年あたり10輛程度と導入台数がごくごく僅かにとどまってしまった。そのため、量産効果による車両価格低減効果も期待できず、全国的にも導入は限られた。
日デ以外の各メーカーはカタログに掲載されたが、新車での導入実績は前述の三菱車を除くと、日野は大阪市交通局・熊本市交通局、いすゞは大阪市交通局のみに留まった。前中扉だけ切り下げたワンステップがこの後の主流になったことを考えると、ガラパゴス的な進化を遂げたバスだったのかもしれない。
(北天)

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