乗り降りのしやすさでは低床化の決定版とも言えるバス。国内メーカーの商用モデル発表と歩調を合わせるようにC代(平成8年度)から試験的に導入を始め、D代(平成9年度)は4メーカーを導入、F代(平成11年度)からは全車がノンステップとなり今に至る。平成24年3月には一般路線車全車がノンステップバスとなった。ここでは黎明期のノンステップバスを中心に紹介していこう。
▲ノンステップバス披露式
C代(平成8年度)
三菱(KC-MP747K)、日デ(UA460KAM)が1輛ずつ新宿に導入された。主に[C・H01](新宿駅西口~都庁循環)・[宿74](新宿駅西口~東京女子医大)用である。平成9年3月18日に都庁下でお披露目を行い、19日から営業を開始した。
三菱は前中扉間のみノンステップで、中扉はグライドスライドとなっている。スロープは中扉下で電動。中扉以降は階段状に処理しているが、ノンステップ化により今まで前方にあった機器類を階段部に配置し、冷房関連設備は屋根上に搭載している。エンジンは車両の中心から非公式(右)側にずらした位置に配置している。
日デはフルフラットノンステップで、中扉は引戸となっている。スロープは中扉下で手動。ノンステップエリアを有効に生み出すためにエンジンを横置きにしているのが特徴である。ZF製のトルコンAT「ZF-ECOMAT」を装備し、補助ブレーキとして排気ブレーキとリターダーを搭載する。
車体側面窓が小さく見えるのが特徴的だが、車体強度の関係上一般車サイズの窓を採用せざるを得なかったためである。
中ドアより後部は通路がスロープ状になり、通路から見ると座席エリアに段差が付いている。
日デ車は、導入後に各地でノンステップを導入した際に支障となる箇所がないかを調査する目的もあり、品川・小滝橋・葛西などにそれぞれ短期間貸し出しされて一般系統で運行を行った。平成13年に北に転属、以後除籍まで北で活躍した。
▲B-C200[ア]
▲C-C200[塩] 登場時
▲C-C201[塩] 小滝橋貸し出し時
▲C-C201[塩]
▲N-C201
▲三菱(左)、日デ(右)の車内[北]
D代(平成9年度)
4メーカーのノンステップが計16輛導入され、本格的に導入が始まった。このうち大半は2月の落成後、すぐに長野パラリンピックの選手送迎バスとして川中島・松電および長電の各バス会社に貸し出しされた。そのため、都バスで運行されたのは年度末になってからである。
▲パラリンピック出発式[塩]
いすゞ…(KC-)LV832Lが1輛臨海に導入。中扉はグライドスライドドア、電動スロープを備える。エンジンはトラック用の6HE1型をベースに出力を得るためターボを取り付けた6HE1-TCC型を採用し、同時期に登場した日野と同じくZF製のトルコンAT仕様となっている。中扉以後は向かい合せの座席でなく、前向き座席となっている。主に[新小21](新小岩駅~西葛西駅)で活躍した後、はとバス委託の臨海になってからはさまざまな系統で運転された。
日野…HU2PMが計6輛早稲田・葛西に導入された。中扉はグライドスライドドア、スロープは手動引き出し。車高は一般車と同じ3.01mとなるため天井が高く、側面窓の天地方向の拡大が行われている。中扉以降はスロープで床高さが上がるため窓の大きさも小さくなっているが、デザインが不連続にならないよう黒い部分を活用している。他社製よりノンステップエリアがやや広いが、最後部は向い合せ座席となっており座席数は20と少ない。葛西は[都07](錦糸町駅~門前仲町)で、早稲田は[池86](東池袋四丁目~渋谷駅東口)で運転された。葛西は当初都市新バス「グリーンスター」のヘッドマークを付けていたが、平成16年の江戸川籍になるまでに外されている。
三菱…KC-MP747Kが早稲田に2輛導入された。中扉はグライドスライドドア、電動スロープを備える。4メーカーで唯一MT仕様となっている。車内座席配置の見直しが行われ、C代と比べ助手席側前タイヤハウス上の座席が撤去された。D209は平成12年にみんくるバスとして各面にみんくるが貼り付けられた。
日デ…UA460KAMが千住・江東・臨海に7輛導入された。中扉は引戸、スロープは手動。C代の引戸と異なり、上下とも窓ガラスをはめた扉になっている。日デ指定でない車庫にも入ったのは、いすゞ・三菱の導入数が少なかったゆえだろうか。側面方向幕の下が引き違い窓から固定窓に変更され、アイドリングストップが搭載された。臨海導入分は平成16年の委託時に江東に転属し、一部は「グリーンスター」のヘッドマークを装着した。
▲R-D202[タ][五][塩]
▲V-D204[き]
▲V-D206
▲T-D210[ア]
▲L-D217[タ]
▲R-D218[き]
E代(平成10年度)
4メーカーのノンステップが20輛、CNGノンステップが2輛が導入された。CNGノンステップは専門の項を参照。中扉のグライドスライドドアが揃って引戸に変更された。乗客の巻き込み防止ということもあったのだろう。
いすゞ…KC-LV832Lが新宿・小滝橋・深川・臨海に計9輌導入された。車内座席配置や中扉が引戸への変更が行われた。登場時は中扉下側がガラスがないものだったが、後に交換された。小滝橋・臨海の5輌は、宝くじ協会の補助金もあり「宝くじ号」というステッカーが貼られているが、経年ではがれてしまった車も存在する。
日野…KC-HU2PMCEが品川・目黒に4輛導入された。リア部のデザインがD代から変更されている。
三菱…KC-MP747Kが千住・南千住に6輌導入された。屋根上冷房機位置が変更されている。車内の座席配置の見直しも行われ、座席定員が21→25に増加した。南千住導入分には「グリーンリバー」のヘッドマーク・愛称ステッカーが取り付けられたが、E420は渋谷転属時に取り外された。
日デ…KC-UA460KAMが江東に2輌導入された。型式認定された量産車となつている。設計を見直し、車高が90mm低くなって側窓の縦方向の拡大を図った。
日野のE404は平成12年から前面に虹装飾がついたほか、日デのE406は平成12年からみんくるバスとなり、みんくるステッカーが車体に貼られている。
▲R-E414[き] 登場時の中扉下ガラスなし
▲E-E411
▲R-E412[五]
▲Y-E404[H07C]
▲K-E420[タ]
▲B-E420[ア]
▲L-E407[き]
▲(1段目) いすゞ(左)、日野(右) (2段目) 三菱(左)、日デ(右)の車内[北]
F代(平成11年度)~
一般路線車はこの年度から全車ノンステップとなった。平成12年の大江戸線改編の減車に備え必要最小限の新車数となり、ディーゼルノンステップはいすゞを除く3メーカー13輛、CNHノンステップは4メーカー9輛となっている。CNGノンステップは専門の項を参照。
全車中扉は引戸になり、スロープは手動引き出し式となっている。日野のうちF450, 451、三菱、日デは都市新バス仕様扱いとなり、内装は変わらないもののヘッドマークと愛称が前面に掲出されている。愛称は車体に直接貼り付けてあり、一般系統では上から無地の板を挿して隠す仕様となっている。
▲S-F451[五]
▲V-F452[き] 登場直後
▲V-F453[濱]
▲A-F462[五]
▲B-F456[H07C]
▲L-F459[き]
これ以降は詳しくは車輛カタログを参照。
これ以降の大まかな変化を記すと、H代(平成13年度)~L代(平成15年度)で中型系ノンステップバスを採用したほか、いすゞ・日デ大型もK代(平成14年度)から前中間のみノンステップとなり、中扉以後は段差処理となった。最後までフルフラットで残っていたいすゞCNGもM代(平成16年度)を最後に、それ以降は前中間ノンステップとなっている。
V代(平成22年度)からは青梅仕様を除く全車が、中扉直後の2列が1席のみで詰め込みの効く座席削減仕様となっている。
標準仕様への取り組み
8都県市共通仕様
このノンステップの普及拡大と同時に取り組まれたのが、仕様の共通化によるコストダウンである。一般の路線バスに比べてかなり高価だったこともあり、平成10年1月に、公営バスを運行する東京・札幌・仙台・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸の各交通局では「ノンステップバス八都市技術会議」を設置し、自動車メーカーと共同で各パーツの共通化について検討し、平成11年11月に報告書の形でまとめられた。
共通化の対象は座席や握り棒の材質や配置、扉やスロープ板、AT車のシフトやパーキングブレーキ取り付け位置、乗降中の表示灯、燃料タンクの容量など多岐にわたり、これら仕様588件のうち8割近くの443件の仕様が異なっていた。最終的には、555件の仕様のうち、標準仕様を145→331件に増やし、八都市共通仕様として103件採用した。
共通化にあたってはメーカー標準仕様を積極的に取り入れ、信頼性の高さも考慮し、例えば降車合図ボタンはLEDにするなどの統一を行っている。中扉は標準仕様は両側観音開きのグライドスライドだったが、挟み込みの危険性を減らすためにセンサーを複数設置する必要がある。中扉付近の乗客を広く検知してしまい、スムーズな運行に支障が出るとのことで、実用的な引き戸になった。
この共通化はF代から一部は先行して実装され始めており、それ以降の代では標準仕様に準拠したようだ。
国交省標準ノンステップ(平成15年)
平成12年11月に国土交通省は交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)を施行、あわせて「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」「移動等円滑化 のために必要なバス車両の構造及び設備に関する細目を定める告示」により、施行以後に登録する新車については全て車輛から床面までの高さが65cm以内の条件に適合することが義務づけられた(高速バスなどの適用除外対象を除く)。これにより、施行以後に販売される各メーカーの路線バス向け新車はノンステップかワンステップバスのみとなった。また、この基準として、それ以外に乗降扉の幅が一か所は80cm以上、スロープ板またはリフト等の車椅子の乗降を簡単にする設備が必須となっている。
その後、さらなるノンステップバスの普及とコスト削減を目指し、国土交通省主導で平成13年・14年度に各バスメーカー・事業者などをメンバーとしたノンステップバス標準仕様策定検討会を設置して検討会を開催し、平成15年3月に「次世代普及型ノンステップバスの標準仕様策定報告書」が取りまとめられた。
これをもとに、「ユニバーサルデザインによる高齢者、身体障害者、健常者がともに利用でき、安全性及び利便性の高いノンステップバスの普及がより一層推進」(当時のリリースより抜粋)する目的で、国土交通省は平成16年1月に標準仕様ノンステップバスの認定制度を発表した。
標準仕様として定められたのは以下の通りで、一例を挙げると乗降口は端が路面と明確に識別できること、足元照明を設置すること、最低一つは有効幅800mm以上の扉とすること……といった具合である。
▲国土交通省の認定制度新設の参考資料より
▲三菱H代車内 |
▲N代車内(標準化後)[北] |
この認定制度において、自動車メーカーが国土交通省にバスの認定申請を行い認定されることで、「標準仕様ノンステップバス」の青色のステッカーが車体に貼られる。平成16年度から、国道交通省は標準仕様ノンステップバスの導入に補助金を重点的に交付することとなった。
都営バスではM代(平成16年度)車から対応した車を導入した。青色のステッカーが車輛の前面・背面に貼られている。
国交省標準ノンステップ(平成18年)
その後、平成18年3月の認定制度改正で、乗降口の開口幅を90cm以上とすること、乗降時のステップ高さを27cm以下、低床部の通路幅を60cm以上、低床部から高床部の段差は1段あたり20cm以下、スロープは5度以下とするなど利便性に配慮した改正を行った。同時に、入口・出口などの表示に標準のピクトグラムの採用、車椅子の固定ベルト、優先席は大型の場合3席以上といった様々な点が改正された。詳細は以下の通り。
▲国土交通省の認定制度変更の参考資料より
▲ピクトグラムの例(同参考資料より)
この改正に適合した車輛は緑色のステッカーとなり、都営バスではP代(平成18年度)車から対応した車となっている。優先席の色が赤から水色に変わっているのも大きなポイントだ。これ以降は認定年の"05"がステッカーのタイヤの両輪に表示されている。
▲L-P467[五]
▲T代(平成21年度)のステッカー
▲P代車内[北] |
▲V代車内[北] |
同年12月には、いわやるバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)を施行した。既存のハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)と統合し、新たな整備目標である基本方針を制定した。
国交省標準ノンステップ(平成27年)
平成27年7月には標準ノンステップバス認定要領を一部改正した。主なポイントとしては、中扉の反転式スロープの採用、車いす固定簡易化のための巻き取りベルト採用、優先席の前向き配置、ベビーカーを折りたたむ必要のないフリースペースの設置などである。
これに対応した新車は都営バスではB代(平成28年度)から登場した。この改正に適合した車輛はピンク色のステッカーとなり、都営バスでは前面右側に貼られた。認定年の"15"がステッカーのタイヤの両輪に表示されている。
▲前向き優先席 |
▲反転式スロープ |
▲巻き取りベルト引出口 |
▲認定ステッカー |
参考:都営バス車輛データ集2000