1. はじめに
ミラーといえば、バスには車内外の様々な箇所に様々な形状のものが取り付けられている。ここではいわゆるバックミラー(サイドミラー)と呼ばれるものについて紐解いてみたい。よく見てみると、車体メーカーや年式・型式・事業者等により違いがあることにお気づきになることと思う。ここでは、都営バスについて、写真を参照しながらより詳しく見ていきたいと思う。
2. 二種類のバックミラー
バックミラーには大別して、ボンネット車体からリアエンジン車体になって以降は2タイプに大きく分かれる。それは「飛び出しタイプ」と、「横付けタイプ」である。
▲(左)横付け例 L-F458、(右)飛び出し例 N-A590
ここで、これからのお話の理解をしていただくためにも、この2つについて解説しておこう。 飛び出しタイプとは、バックミラーの取り付け部からステーが前方に飛び出しておいるタイプのことである。
横付けタイプとは、取り付け部から真横にステーが短めに付きミラーをつけているタイプのことである。
日本国内では(沖縄は昭和53年の変更以降)運転席が右側にあるので、扉側に付いているものについてはメーカーや年式の違いはあるものの、基本的には飛び出しタイプである。
逆側の運転手席側のミラーについては、飛び出し・横付けタイプの2種類に大別される。使い分けは事業者ごとに異なったり、同一事業者でも異なるタイプを導入したりするなど様々である。運転する立場からすると毎日見るものであり、習慣になっているものなので運転上はタイプが異なることは不都合である。基本的には同一タイプを導入し続けるのが一般的である。
ただし、車体形状の変更等により変わる場合もあるし、会社で一つのタイプで統一するために突然変更することもある。都営バスでは、以下の表のようになっている。
基本的に、日野は飛び出しで統一、三菱は横付けで統一、いすゞ・日産ディーゼルは営業所によって異なっていることが分かる。
3. 初心者向けポイント
3.1 飛び出しから横付けへの変更
基本的に、営業所ごとに飛び出し・横付けタイプは固定され、年ごとに変わることはない。その後、全ての営業所とも横付けタイプ統一導入への流れとなっている。
3.1.1 車体形状の変更によるもの
いすゞ車の川重車体が昭和58年度後期車M代よりキュービックLVへモデルチェンジし、車形より飛び出しタイプが不可能になり、以後川重ボディ(後のIKC→いすゞバス製造)導入の車庫は横付けタイプに変更された。新宿と大塚が該当する。
▲(左)G-M124 大塚のM代前期 (右)G-N353 大塚のN代後期
▲(左)E-K392 小滝橋のK代 (右)R-L624 江戸川のL代
3.1.2 指定車体メーカーの変更によるもの
いすゞ車でも富士重ボディを基本車体としていた営業所では、各種低公害車(CNG・畜圧式ハイブリッドバス)は川重系ボディだったため、横付けでの導入になった。巣鴨と深川が該当する。
▲(左)S-B610 いすゞCNG (右)P-C216 いすゞCHASSE
3.1.3 メーカー基本仕様への変更によるもの
ノンステップ車を本格導入する際に、メーカー標準の使用に合わせることになった。この変更により、F代(平成11年度)以降の新車は全て横付けタイプに統一された。なお、その後も飛び出しタイプを特別に継続している事業者も存在する。
▲東武バスセントラル2683のいすゞエルガ(飛び出しタイプ)
3.2 横付けから飛び出しへの変更
過去に横付けタイプを導入後、飛び出しタイプ導入に変更した車庫は葛西のみである。昭和47年の葛西発足時に新車を大量に導入し、江東から日産ディーゼル車も大量に転属させることで数を確保したが、江東の車と合わせるために初年度のZ代(昭和47年度)のみ横付けとなった。
その後、車種を日野に統一するために他車庫からの転属車が数多くなると考えられ、この後に日野車は飛び出しタイプに統一されたこともあり、次導入のD代(昭和51年度)以降は飛び出しタイプになった。
▲(左)V-Z560 葛西のZ代、(右)V-D498 葛西のD代
4. 上級者向けポイント
4.1 転属の際の変更
ミラー形状の異なるタイプの営業所への転属の際、ミラー変更の行い方には2通りある。
4.1.1 付け替え
予備品または交換できる対象車があるときには付け替えが行われる。廃車車輛からの再利用を行うときもある。
例)X593・594(平成3年度)の新宿から杉並への転属時(平成7年3月)……A代導入時と同時期だったため、該当部品をメーカーより購入した。後に深川に転属するが、飛び出しタイプ同士の営業所だったため変更なし。
▲(左)C-X594 新宿時代、(右)S-X593 杉並・深川時代
例)北営業所と今井支所の大規模車輛交換時(昭和62年2~4月)→4.3の「左右の高さが異なる」項を参照。
例)B474~476・482・483(昭和49年度)の今井から北への転属時(昭和59年3月)……玉突きで代替廃車になる北営業所X代車(X572~575・577)のミラーを再利用したため、左右形状が違うことになった。X代車のものは前面傾斜ボディということもあって支持部の形状が異なるので、よく見ると違和感がある。そのため、該当のX代は除籍後の留置時には、運転手側のミラーがない状態だった。
▲(左)N-F331 標準型、(右)N-B476 形状違い例
例)A428・C784の北から臨海(後に江東)への転属(平成14年3月)
4.1.2 取り付け方法の改造
飛び出しタイプから横付けタイプへの変更のみである。様々な例があるが、代表的なものを取り上げると以下の通りである。
例)Y631~635(平成4年度)の深川から臨海への転属(平成10年1月)
例)C501(昭和50年度)の深川から江戸川への転属(昭和57年3月)
▲(左)富士重飛び出しタイプ、(右)R-Y631 臨海転属改造後
例)日野車の目黒・杉並から渋谷への転属(平成11年7月など)
▲(左)M-V617 目黒時代、(右)B-V611 渋谷時代
例)Z271(平成5年度)の北から渋谷への転属(平成17年11月)
▲(左)B-Z271 改造前、(右)B-Z271 改造後
4.2 日産ディーゼル車のミラー形状
日産ディーゼル車の一時期のミラー形状は2通りではなく、よく見ると実は3通りある。
▲(左)F-B607 練馬、(中)L-B729 江東、(右)N-B644 北
大別すると、飛び出しタイプの志村(→北)と横付けタイプの練馬・江東・今井に分かれるが、ノンステップ車導入前までの7EボディとなるW~C代(平成2~8年度)においては練馬と江東の形状も違い、練馬のほうがわずかながら低い位置にある。練馬については後年、5EボディのR・T代及び7EボディのV代についても低い位置に順次付け替えられた。
4.3 ミラー高の違い
飛び出しタイプで左右のミラーの高さが違う例。
4.3.1 ノンステップバスの場合
初のCNGノンステップ車で北所属のE401(平成10年度)が該当する。日産ディーゼルのE代ノンステップはCNG・ディーゼル合わせて3輌導入されたが、入口側のミラーの位置が低かった。ニーリングすると停留所のお客の頭にぶつかりそうで怖い、または実際にぶつかったという事業者からの申し出により、しばらくしてから希望の事業者には無償付け替えを行うことになり、都営バスも申し出て3輌とも交換を行った。うち2輌は運転手側が横付けタイプ採用の江東の車(E406,407)であったためあまり変化が感じられないが、飛び出しタイプの北営業所(E401)では運転手側は未交換のため、飛び出しタイプで左右高さの違う車が誕生してしまった。
▲N-E401 左右で高さが違う例
▲L-E406
4.3.2 過去車の場合
江戸川・今井の統合準備として、車種統一のために日産ディーゼル車が今井から北へ転属したが、これらの車は北に元からいた富士重工製いすゞ車のミラーの取り付け位置に合わせたため、運転手側のミラーの取り付け位置が低くなった。
▲N-E512 今井→北の日産ディーゼル車
▲(左)N-F164 北在籍時、(右)U-F164 今井転属後
逆に、今井に転属したいすゞ車は、運転席側バックミラーとアンダーミラーの取付位置が違ったところになっている。
4.4 ミラー自体の形状の変更
局指定の小判型を左右とも長い間採用してきていたが、昭和59年3月導入のM代後期車より日野車は車体形状が変更されたことに伴い、目線の高さも変わることや視野の向上もあり、日野車については角型ミラーを左側に採用した。
▲(左)A-M151 日野M代前期、(右)V-M297 日野M代後期
次にこの角型ミラーを採用したのは三菱で、R代後期からである。よって、日産ディーゼル車でも三菱系車庫になる早稲田に導入されたX代リフト車(平成3年度)および南千住に導入されたCNG第一号車A476(平成6年度)は導入当初から角型タイプを採用していた。他の同時期の日産ディーゼル車は小判型であった。
▲(左)T-X598 早稲田の日デ、(右)同時期導入時の北の日デ車
この変更は乗務員からも好評だったためか、B代(平成7年度)から左右とも角型のものを全車種で導入することになった。また、その時点での在籍車についても、オーバーホールの時期に関係なく短期間で角型のものに交換された。
▲(左)S-T331 交換前、(右)P-T327 交換後
車輌仕様にも乗務員への配慮が感じられ、このような細かいことまで配慮して乗務員・車輌担当者が共に作り上げていく交通局の姿勢は乗客へのサービス向上に繋げようとする現れでもあろう。
(想い出の志村)
写真=[o][き][リ][北]