高度経済成長に沸く昭和30年代後半、東京都交通局の経営状況は急速に悪化していた。特に、陸上交通の主役だった都電の減衰が大きく、乗降客数が最大だった昭和35年の163.6万人に比べると、6年後の昭和41年度末には113.6万人と3割もの減少となった。地下鉄の相次ぐ開通や、自動車の急速な増加に伴う渋滞や、軌道敷への自動車進入可による速達性低下といった面で大きく影響を受けたと考えられる。
また、経営を圧迫する度合は予想以上に進み、40年度末の累積欠損金は126億円と大阪市に次ぐ額で、一刻も早い独立採算による正常化が求められていた。既に地下鉄の影響で、14・18・41系統は廃止されていたが、大多数の系統は運行されていた。
そのような中で、交通局は昭和41年2月に都電の1/3撤去、トロリーバス撤去、バスの再編成とワンマン化を軸とする再建基本方針を提出したが、都議会で否決され、都電の全廃に方針を変更し、より一層徹底した案となった計画を提出、昭和42年1月より交通局は財政再建団体となり、再建への道のりを歩むこととなった。
これらの計画に基づき、昭和42年~46年度にかけて、都電・トロリーバスは順次廃止されることになり、代替としてバス路線が敷設された。中途の計画変更で、城東地区の廃止が1年繰り下がったり、専用軌道の多い現在の荒川線が延命(後に恒久的存続)されたりといった変更はあったものの、おおむね予定通りの進捗となった。
基本的には全ての系統で、都電の経路をなぞるように代替路線が引かれたが、路上での折り返しができないため、代替系統によっては路線の延長・短縮を行った。また、2・8・25(・40)系統については、既に他の交通機関があることや、代替の意味が薄いことから直接の代替系統は設定されず、並行路線の本数拡充で済まされた。
代替バスの設定にあたっては、当時の運賃が都電20円、都バス30円だったため、都電廃止1年間は都電定期運賃で乗車できるという移行定期を設定するなどし、この運賃差による逸走を差し引いた乗客がそのまま移行するとの計算で、最多通過人員区間における混雑度が終日50%、ラッシュ時に90%となるよう本数の設定を行った。
また、始発・終発の時刻も都電に合わせて、6:00~22:30と運行時間帯が通常の路線バスよりも長くなった。これは、現在でも名残をとどめる系統がいくつか残っている。大幅にバス路線が増加するため、都電やトロリーバスの車庫をバス車庫に転用したものもあった。現在残っているものとしては、巣鴨・南千住・杉並がそれに当たる。
系統番号だが、昭和42年12月の第一次都電代替にあたり、都電代替バスは既存系統から離れ500番台を使うことになった。しかしこれもひと悶着あり、代替当初はバス代替された都電が1・3・4・5・6・37の各系統だったのに対し、バスは[501][503][504]…系統とせず、それぞれ[500][501][502]…系統と、都電の番号を無視していた。
さすがにこれではまずいということになったためか、次の昭和43年2月の代替時には都電の系統番号を引き継ぐように改番された。
なお、昭和47年に最後にバス代替された都電([門33]など)は、直接漢字+数字2桁の新番号になってしまったため旧番号が存在しない(もちろん計画時は500番台の仮番号が与えられていた)。昭和55年頃までは交通局の公式路線図にしばらく新旧対応表が系統一覧についていたが、そこでは[門33]の旧番号は「電23」と書かれている。都電23系統がそのまま変化したことを示しているが、なかなか分かりやすい書き方であった。
600番台はトロリーバス代替系統である。トロリーバスが10x系統を名乗っていたため、都電の100番後を名乗ったのであろう。こちらは[601]~[604]まで、トロリーバスの番号をそのまま引き継いで運行がなされていた。
しかしながら、都電・トロリーバスから代替バスへ移行したのは53%にとどまった。地図にも描かれ、認知度が高い都電と、さまざまな系統が走り、停留所も交差点から離れて設置されることもある都バスではおのずと果たす役割が違っていたということだろう。また、ちょうどバスのワンマン化が進み始めたころであり、代替バスは全てワンマンでの運行となった。しかし、車掌業務の省略化のため、前面の行き先表示は双方向、背面は行き先なしという不親切さであった。「交通機関のあり方は、~機動性の富むバスによる補完交通が担う」と再建計画にもあったが、思い通りには行かないものである。
その後、バスも路線の大幅縮減をメインとする再建計画が実施されていく中で、12系統-新宿線、35系統-三田線など、代替バスであっても地下鉄と並行するなど、役割を終えた路線は廃止・短縮が進み、淘汰されていった。
しかし、その中で逆の動きもあった。バスとしての存在感を示す「都市新バス」の取り組みである。昭和59年から[都0x]の系統番号に順次変わり、「使えるバス路線」としての取り組みは成功し、8系統9路線が進化したが、このうち7路線が都電代替の路線である。
また、バス代替時から全く路線形態を変更していない路線もあり、平成5年度の乗降客数ベスト20系統のうち、実に半数の10系統が都電・トロリー代替路線が占めていた。
近年だと平成12年の大江戸線全通、南北線・三田線延伸で影響を受け、廃止されたものもあった。しかし、バス代替された系統のうち、半数以上が廃止されずに残っている。地下鉄の直接影響を受けないところを中心に、今後とも基幹路線として活躍するものも多い。都電・トロリーバス代替系統は今なお重要な地位を占めているのだろう。
表 代替系統一覧
都電・トロリーバス | 代替当初 | 平成28年末現在 | |||||||
代替実施年月日 | 番号 | 運行区間 | キロ程 | 代替系統 | 運行区間 | キロ程 | 現在系統 | 運行区間 | キロ程 |
S38.12. 1 | 14 | 新宿駅~荻窪駅 | 7.4km | 79 | 四面道~新宿駅西口 | 8.0km | --- | (S41.4.20廃止) | |
S41. 5.29 | 18 41 | 志村坂上~神田橋 志村橋~巣鴨車庫 | 8.4km | 105 | 志村車庫~巣鴨駅 | 8.5km | --- | (S43.12.31廃止) | |
S42.12.10 | 1 | 品川駅~上野駅 | 11.0km | 501 | 品川車庫~上野駅 | 11.1km | --- | (S44.10.26廃止) | |
2 | 三田~東洋大学 | 9.4km | (代替なし) | ||||||
3 | 品川駅~飯田橋 | 10.3km | 503 | 品川駅~飯田橋 | 8.1km | 四92 | (H12.12.12廃止) (反96:五反田~六本木ヒルズ) | ||
4 | 五反田駅~銀座2 | 8.0km | 504 | 五反田駅~新橋駅 | 6.9km | 橋99 | (S54.11.23廃止) | ||
5 | 目黒駅~永代橋 | 10.2km | 505 | 目黒駅~永代橋 | 10.8km | 黒10 | (H12.12.12廃止) | ||
6 | 渋谷駅~新橋駅 | 6.1km | 506 | 渋谷駅~六本木~新橋駅 | 5.9km | 都01 | 渋谷駅~六本木~新橋駅 | 5.5km | |
8 | 中目黒~築地 | 10.2km | (代替なし) | ||||||
37 | 三田~駒込千駄木2 | 9.4km | 537甲 | 三田~上野駅 | 7.8km | --- | (S47. 1. 1廃止) | ||
40 | 神明町車庫~銀座7 | 537乙 | 駒込駅~東京駅北口 | 8.1km | --- | (S44. 6. 9廃止) | |||
短縮:7(泉岳寺~品川駅)、22(日本橋~新橋駅)、102(品川駅~渋谷駅) | |||||||||
S43. 2.25 | 11 | 新宿駅~月島 | 8.7km | 511 | 新宿駅西口~晴海埠頭 | 11.5km | 都03 | 四谷駅~晴海埠頭 | |
35 | 巣鴨車庫~西新橋1 | 8.6km | 535 | 巣鴨駅~浜松町駅 | 9.7km | 水59 | (H12.12.12廃止) | 5.0km | |
短縮:21(千住4~三ノ輪橋) | |||||||||
S43. 3.31 | 17 | 池袋駅~数寄屋橋 | 9.8km | 517 | 池袋駅東口~数寄屋橋 | 9.8km | 都02乙 | 池袋駅東口~一ツ橋 | 6.6km |
102 | 品川駅~池袋駅 | 17.3km | 602 | 池袋駅東口~渋谷駅 | 8.8km | 池86 | 池袋駅東口~渋谷駅東口 | 8.8km | |
103 | 池袋駅~亀戸駅 | 14.9km | 603 | 池袋駅東口~亀戸駅 | 15.5km | --- | (S46. 3.17廃止) | ||
104 | 池袋駅~浅草駅 | 13.3km | 604 | 池袋駅東口~浅草雷門 | 13.2km | 草64 | 池袋駅東口~浅草雷門南 | 13.0km | |
短縮:12(岩本町~両国駅)、13(岩本町~水天宮)、17(文京区役所~数寄屋橋)、25(須田町~日比谷公園) | |||||||||
S43. 9.29 | 9 | 渋谷駅~新佃島 | 11.4km | 509 | 渋谷駅~豊海水産埠頭 | 11.6km | 銀86 都04 | (S57.12.26廃止) 東京駅南口~豊海水産埠頭 | 11.6km 4.3km |
10 | 渋谷駅~須田町 | 9.4km | 510 | 渋谷駅~御茶ノ水駅 | 8.4km | 茶80 | (S54.11.23廃止) | 9.4km | |
15 | 高田馬場駅~茅場町 | 9.4km | 515 | 小滝橋車庫~茅場町 | 10.3km | 飯64 | 小滝橋車庫~九段下 | 6.6km | |
25 | 西荒川~須田町 | 7.7km | (代替なし) | ||||||
39 | 早稲田~厩橋 | 7.2km | 539 | 早稲田~上野広小路 | 5.0km | 上69 | 小滝橋車庫~上野駅 | 8.8km | |
101 | 今井~上野公園 | 15.5km | 601 | 今井~上野公園 | 16.2km | 上26 亀26 | 亀戸駅~上野公園 今井~亀戸駅 | 9.6km 7.1km | |
S44.10.26 | 7 | 四谷3~泉岳寺 | 7.2km | 507 | 品川車庫~西麻布~四谷駅 | 9.7km | 品97 | 品川車庫~新宿駅西口 | |
21 | 三ノ輪橋~水天宮 | 6.2km | 521 | 東京球場~水天宮 | 7.3km | 秋47 | (S49. 2. 1廃止) | 4.0km | |
30 | 東向島3~須田町 | 6.8km | 530 | 東向島広小路~須田町 | 7.3km | --- | (S46. 1. 1廃止) | ||
31 | 三ノ輪橋~都庁前 | 7.4km | 531 | 東京球場~都庁前 | 8.0km | 草40 | (S52.12.16廃止) | 8.5km | |
33 | 四谷3~浜松町1 | 5.8km | 533 | 浜松町駅~四谷片町 | 6.8km | 四98 (浜95) | (S57.12.26廃止) | 14.0km | |
34 | 渋谷駅~金杉橋 | 6.4km | 534 | 渋谷駅~赤羽橋~新橋駅 | 8.4km | 都06 | 渋谷駅~赤羽橋~新橋駅 | 8.4km | |
廃止:17(池袋駅~文京区役所 4.8km) 既に代替バス運行開始済、短縮:28(都庁前~日本橋) | |||||||||
S45. 3.27 | 12 | 新宿駅~岩本町 | 7.8km | 512 | 新宿駅西口~九段下~岩本町 | 8.0km | 秋72 | (S55. 3.16廃止) | 8.1km |
13 | 新宿駅~岩本町 | 7.7km | 513 | 新宿駅西口~飯田橋~岩本町 | 8.3km | 秋76 | (H12.12.12廃止) | 9.6km | |
S46. 3.18 | 16 | 大塚駅~錦糸町駅 | 10.1km | 516 | 大塚駅~錦糸町駅 | 10.2km | 都02 | 大塚駅~錦糸町駅 | 10.4km |
19 | 王子駅~通り3 | 9.6km | 519 | 王子駅~東京駅八重洲口 | 10.3km | 茶51 | 駒込駅~秋葉原駅 | 5.9km | |
20 | 江戸川橋~須田町 | 9.5km | 520 | 早稲田~須田町 | 10.1km | 上58 | 早稲田~上野松坂屋 | 9.5km | |
22 | 南千住~日本橋 | 6.6km | 522 | 南千住~東京駅八重洲口 | 7.1km | 東42甲 | 南千住車庫~東京駅八重洲口 | 7.1km | |
36 | 錦糸町駅~築地 | 6.3km | 536 | 錦糸町駅~築地 | 6.2km | 錦11 | 錦糸町駅~築地駅 | 6.1km | |
短縮:38(日本橋~門前仲町) | |||||||||
S47.11.12 | 23 | 福神橋~月島 | 8.7km | 門33 | 亀戸駅~豊海水産埠頭 | 10.5km | 門33 | 亀戸駅~豊海水産埠頭 | 10.5km |
24 | 福神橋~須田町 | 6.8km | 上35 | 亀戸駅~須田町 | 7.8km | 上35 | (S52.12.16廃止) | 7.8km | |
27 | 王子駅~赤羽駅 | 4.1km | 王57 | 赤羽駅東口~豊島5団地 | 6.1km | 王57 | 赤羽駅東口~豊島5団地 | 6.2km | |
28 | 錦糸町駅~日本橋 | 7.4km | 東22 | 錦糸町駅~東京駅北口 | 8.2km | 東22 | 錦糸町駅~東京駅北口 | 8.2km | |
29 | 葛西橋~須田町 | 7.8km | 草28 | 葛西橋~神田駅 | 8.6km | 両28 | 葛西橋~両国駅 | 7.4km | |
38 | 錦糸町~門前仲町 | 7.4km | 錦14 | 錦糸町駅~門前仲町 | 6.8km | 都07 | 錦糸町駅~門前仲町 | 6.8km |